2018年7月、気付けば "Bio Weingut Hamm ; Hamm醸造所" での実習が始まってもうすぐ5か月。
毎日ブドウ畑に出て様々な経験をしている毎日。ブドウ畑で感じる四季は本当に癒してくれるし、なにより植物がもつ底力をものすごく感じる。
そんな日々感じるちょっとした喜びも踏まえて、ワイナリーの仕事について書き留めておこうと思う。かなりマニアックな話も多いけど、ワイン用のブドウが出来ていく過程を軽く読み流してもらえれば幸い。。
"その1" では、3月、4月に行う発芽前のブドウ畑で行う "準備" について。
1.ワイン用ブドウ畑の特徴
まず、ワインの地方に行くと、見慣れない形でブドウを育てているのに気づく。そこについて少し。
日本では食用ブドウがほとんどなこともあるし、日本独自の栽培方法が確立されていることもあって、一般的には棚で食用ブドウの栽培が行われている(頭上にブドウの樹が横に広がり、実がぶら下がっているヤツ)。一方、ヨーロッパのブドウ栽培は、写真のように縦型で平面的に育てるのが普通。
理由は様々だけど代表的なところでは、ワイン用は食用よりたくさんの収量が必要で、自ずと畑の面積も広くなる。そのため、機械(トラクターなど)での作業性が求められることになる。さらに、ワイン用ぶどうには直射日光もとても重要。(日本の棚式だとブドウは葉や枝の下にぶら下がるため、通常はあまり直射日光が当たらない。)直射日光はぶどうの酸味を求める上で必要不可欠であり、甘さの中に充分な酸味も必要となるワイン用ブドウならではの考え方である。などなど、、
様々な経験値と歴史から確立された方法であることを知ったうえでブドウ畑を眺めてみると一層興味も沸いてくる。
そして、もう一つ面白いのが、急斜面に作られたブドウ畑。有名どころではモーゼル地方やフランケン地方など。電車の車窓から時折見える景色でもある。
これは、緯度が大きく関係している。ドイツは緯度が高いため、太陽の角度が概して低い。そのため、なるべく南向きの斜面にブドウ畑を作り、出来るだけ多くの太陽光を得ようとしている。作業性には難があるものの、そういった斜面で昔からブドウが作り続けられているのも面白い。
そういった日本ではなかなか目にすることのないワイン用のブドウ畑、少し掘り下げて眺めてみるとドイツののどかな景色がさらに面白くなるかも。
2.2月中旬〜3月下旬 : 1年の始まり
前年の収穫後、寒い冬の間は樹を休ませる期間。そしてまだまだ冬深い、時に氷点下にもなる2月中旬辺りから、新しい1年に向けての準備が始まる。
この時期に行う作業としては主に次の2つ。
1) Abschneiden : ブドウの樹の剪定。新たな年の主となる枝を残し、その他の枝を切断
2) Ausheben : 切断済みの枝を除去
1)Abschneiden : 剪定、主枝を選ぶ
新年の最初の作業。ブドウの樹をデザインする上でとても重要である。
(写真はすでに不要な枝をカットした後。)
通常、今年用の枝として1本ないしは2本を選定する。(基本は2本。)
主枝の選定は主に以下の点に注意をして行っていく。
a. 枝の太さ・長さ ; ワイヤーに結び付けることや隣の樹との距離を考えながら十分な長さであること。また、適度にしなりのある太さ。太すぎず細すぎず。
b. 枝付け根の強さ ; 選んだ枝を左右に動かしてみて、根本がしっかりとしているものを選ぶ。弱い枝は簡単に根元から折れてしまう。
c. 枝の向き ; ワイヤーに沿って平面的に伸びているものを選ぶ。通路側へ飛び出しているものは、トラクターが通った時に主枝を傷つけたり折ったりしてしまう。
d. 健康的な枝 ; まっすぐ綺麗に伸び、傷や変色の無いものを選ぶ。ギザギザに伸びているものは病気の可能性が高い。
e. 全体のバランス ; 樹の全体を見て、バランスの良い枝を選ぶ。数年後を予測しながら、幹をどう成長させていくかを考える。
文字にしてみると極当たり前の事だけど、これを瞬時に見極めて素早く作業していく必要がある。なんせブドウ畑は広いのだから。。。
ワイナリーに来て最初に教わった作業だったこともあり、最初は相当の時間がかかってしまい注意を受けたりも。選ぶ枝を修正されることの連続。すぐに次の作業へ移ったので、正直感触を覚える程度しか習得できず。来年はコツをつかむくらい経験を積みたいもの。
2) Ausheben : 切断済みの枝を除去
剪定が終わったら順次切った枝の除去を行っていく。剪定と並行して行う作業。
剪定後はこのようになっているので、カット済みの枝を力技で引き抜いていく。単純な作業だけど最初は "Ranke ; 巻きひげ" の強さにビックリする。基本的に1年モノの枝だけど、その成長力はものすごく、結構な力仕事。そして、コツも必要。
作業を終えるとものすごくスッキリしたブドウ畑に。なんだか、年末の大掃除を終えた時の気分。。
ちなみにこの作業で重要なポイントは、
今年用の主枝から出ている小枝は全て根元から綺麗に取り除くこと。これは剪定の際にも行うことだが、しっかりと小枝を取っておかないと、余計な節から "Augen ; 芽" が出てきてしまい、後々の新芽除去作業にも影響してしまう。
最後に通路に集めた枝を除去して完了。
3.3月下旬〜4月下旬 : 今年の準備
前年のブドウの樹を整理したら、今度は今年のための準備へ。次第に気温も上がり春も本格化するとともにブドウ畑には緑が広がっていく。
この時期に行う作業としては主に次の2つ。
1) Anbinden : 今年用に選んだ主枝をワイヤーに固定する
2) Hacken : 畑を耕して下草の管理
1)Anbinden ; 主枝の固定
醸造家の考え方の違いがまず最初に現れるのがここであり、とても重要な作業。
様々な固定方法がある中(上の例はごく一部)、ドイツのラインガウエリアではほとんどが1枚目写真のいずれかである。
働いているHamm醸造所も基本的に1枚目下の方法で固定する。
ワイヤーに絡ませて固定していくが、ここでとっても重要なポイントがある。
主枝をワイヤーに通す際、ねじって芽を上下に向けてやること。(下の写真参照)
理由はとても簡単で、芽は基本的に180°で互い違いに並んでいるが、芽が横に向いてしまうと、通路に向かって伸びることになり、成長していくとトラクター作業時に枝を傷つけてしまうことになる。
(文字で書くとたいしたこと無さそうだが、のちにとても重要なポイントだったことを思い知らされる。)
芽を上下に向けて固定した際の例。(4月末発芽後の写真)
そして、考え方の一つとして興味深かったのが次の件。
上の写真を見てもらうとわかるが、主枝を途中でまげて下向きに固定している。これにも理由がある。
まず、基本的に根から吸収した栄養素は根に近い枝から上に向かって運ばれていく。そして、各主枝に必要となる芽の数は10前後である。
しかし、実際の主枝には10以上の芽が付いているため、栄養の届きにくい主枝の先にある芽は光合成用として扱うわけである。途中で曲げて主枝を固定するが、その際にあえて強く曲げ、曲げポイントで枝内部を圧迫させてやる事により、さらに根からの栄養を届きにくくするわけである。
この写真くらい曲げてやることで、栄養が、根に近い芽に集中的に供給されて、そこに出来るブドウがしっかりと成長する、と言う考え方である。
非常にわかりにくい説明になってしまったが、、要は、栄養を一部の枝に集中させてより良いブドウを作ろう、と言うことである。
この考え方には、結構納得させられる部分があり、今後の成長具合を見比べていきたいと思っている。
そして、こちらは逆に収量を求めた場合の固定方法であり、主枝が3本となり、折り重なって固定されている。。
が、この方法は、発芽後に密集しすぎて作業性も非常に悪化するし、葉が密集することによって湿気を保ってしまうことから病原菌の危険が高くなる。個人的にはこの固定方法は好きになれない。
が、高いワインから手ごろのワインまで揃えることも必要なこと。実習者としては、管理方法の違いから現れる味への影響を感じられるくらい、しっかりと経験していきたいものである。
2) Hacken ; 畑を耕す
こう書くと、野菜畑でもないのになぜ?と感じる方もいるだろうが、ブドウ畑でも実は重要な作業の一つである。仕事内容は皆が想像する畑仕事そのもの。
主枝の固定が終わると、ブドウがある程度成長するまで畑仕事は少し落ち着くので、この期を使ってブドウ畑の下草(雑草)管理を行う。
4月に入るとブドウ畑も一気に緑色が濃くなり、下草が一気に成長を始める。
そこで、まずはトラクターでブドウの樹の根本を耕していく。
その後、人力で鍬を使って耕していく。
わかりにくいが、2枚目写真の左列が耕す前、右列が耕した後。下草が綺麗になくなっていることがわかる。
なお、耕す意味としては、土を柔らかくすることで水の吸収をよくする、さらには今後の成長過程で、下草が大きくなり過ぎないようにする、という2点。
ここで、 "下草" について。
この下草、ブドウ畑にはとても重要で、実は種をまいて意図的に植えたモノである。
ワイン造り専門店に行くと、ブドウ畑用の "下草ミックス種" なるものが売っていて、その事実を知った時は非常に驚いたもの。原理としては、植物は根に栄養素をため込むのは知られているが、植物によってため込む栄養度が異なる。その中から、ブドウ畑に有益な栄養素をため込む植物を選んで、ブドウ畑に植えるわけである。つまり下草が肥料の代わりになっているのである。
下草ミックスには実に色々な植物のタネが混じっていて、ニンジン、マメ、カブ、ネギ、ルッコラ、アスパラ、セロリなどなど、ブドウが生い茂るまでは野菜畑か!?と突っ込みたくなるような状況になっているときもある。
そんな重要な下草なので、耕しすぎても良くない、と言う側面もある。特にここはビオのワイナリーなので、この辺りの考え方にはこだわりを持っている。
緑の生い茂ったブドウ畑、、、写真写りはとってもいいけど、、、作業する方はなかなか大変。。
ちなみに、大量生産のワイナリーでは積極的に除草剤が使われる。
このように、耕してもないのに不自然にブドウの樹の下だけ草が無い場合は、除草剤を使用している畑である。
4.Austrieb ; 発芽
ワイナリーとして一つの重要なタイミングである発芽。発芽の声を聴くといよいよスタートであり、気も引き締まる思いである。
4月17日 つぼみの膨らみが加速
4月20日 発芽
4月25日と4月30日
発芽後は早い、とは聞いていたけど、発芽して10日間ほどで、みるみるブドウの樹に緑が広がっていく様は驚きの一言で、自然の力強さを最も感じた瞬間だった。
今年は3月下旬から暖かく、発芽が例年の2週間ほど早いとのこと。この先の天候次第では、次の重要なタイミングである "開花" も早まりそうである。
いよいよブドウの発芽が始まり、これからとっても忙しい時期へ。頑張らなくちゃ!!
次は、ブドウの開花となる、5月、6月編の "その2(ぶどうの開花)" へ。
「ワイン実習 2018」
・ワイナリー実習2018 その2 ; ぶどうの開花
・ワイナリー実習2018 その3 ; ぶどうの成長
・ワイナリー実習2018 その4 ; 収穫と発酵





































コメント
コメント一覧 (4)
コメントありがとうございます。ドイツは効率的だな、と感じることも確かに多いですね。ワインのキャップがコルクでは無くスクリューキャップが多いのも、品質が安定するから、と言う理由からのようですし。ただ、エコに対する考え方が強いからなのか、農機具など含めて全体的にとても古いモノが使われていて、その辺の効率は悪いように感じます。働いているとその部分が日本と一番違うところだな、と実感しています。(日本は、新しい効率を良いモノを使った方が、自然にもいい、と考える部分があるので。)
どちらが良いとか、そういった比較は意味が無く、文化の違いとしてとらえて体感していくと歴史を感じることが出来てすべてが興味深く感じます。
ドイツも猛暑でブドウの収穫が1か月近く早まりそうです。一部地域品種ではもう収穫が始まったとか。。この暑さが味にどう影響するのか、その辺りが興味深いところです。
コメントありがとうございます。更新がゆいぶんと滞っていて恥ずかしい限りです。。
大学は高校卒資格+ドイツ語で入学できます。大学を中退されていても、経済学や生物、物理、化学、数学あたりの単位をとっているのであれば、単位を振り返ることもできると思います。その時は大学の成績証明証(英語版でもOKだと思います。)があると入学後に役立ちます。
もし他にも不明なことがあれば右のメッセージからでもご連絡ください。